マーケティングの世界は流れが速く、次から次に新しい手法が登場します。
今回ご紹介する「 ABM(アカウント ベースド マーケティング)」はその中でも昨今、
非常に注目度が高いので、おそらくは耳にしたことがある方も多いと思います。
今回は「世界一わかりやすいABMの解説」を目標に、お話してみます。
●ABMとは?従来型マーケティングとの違い
これまでご説明してきた通り、マーケティング活動を要約すると
①顧客の興味関心に沿ったさまざまなWebコンテンツを用意する
↓
②見込み顧客(リード)を集める
↓
③MA(マーケティングオートメーション)を活用してデジタル行動履歴を把握、絞り込み
↓
④確度の高い案件(ホットリード)情報を営業に渡す
となります。
これは米国式マーケティング、デマンドジェネレーション/「絞り込み(ファネル)型」と呼ばれます。
一方、マーケティング先進国の米国では、
* Web来訪者の82%はポテンシャルカスタマーではない
* Web来訪者の直帰率は60%にのぼる
* マーケティングが提供するリードの50%は営業に無視される
というデータがあります(米Demandbase社調べ)。
日本でもおよそ、変わらない結果でしょう。
さらにBtoBの製品、サービスは営業リソースが限られ、
また購入する企業も限定的なケースがほとんどです。
それなのに、
広い市場に対して総当たり的に見込み顧客を探して絞り込むのは本当に効果的なの?
というお話です。
そこで、近年では
「限られた顧客に対してのみ、限りある営業、マーケティングリソースを投下し、最大限の成果を得よう」
という考え方が広まりつつあるのです。
それが、今回ご紹介する「ABM(アカウント ベースド マーケティング)」と呼ばれるものです。
従来型の絞り込み型を「投網方式」、ABMを「銛(もり)で突く」違いであるとも言われます。
●ABMの考え方
シンプルに言えば、
①既存取引先企業や、これから取引を狙う新規取引企業をターゲット企業(アカウント)として明確に定義する
↓
②その企業に所属する個人単位のリードを追う
というものです。
従来のやり方のようにすべてのリードの行動履歴を把握、分析するのではなく、
ターゲットを絞り込む事で、
マーケティングや営業リソースの無駄使いをやめましょう、という考え方です。
発想はシンプルです。
・新規の取引先ばかり探すのではなく、
既存取引企業のフォローをフィールドセールスだけに任せず、
デジタルマーケティングの手法を活用して自社製品、サービスのアップセルやクロスセルを狙う。
・新規取引先を探す場合も一定条件で絞り込んだ、
より見込みの高い企業に絞って重点的にアプローチする。
というものです。
どうやってそのターゲット企業を選定するか、というと、
・予算があり、購入力があるか
・自社の戦略的に重要であるか
・市場への影響力が強いか
などで決定します。
●ABMは日本市場に合うやり方?
実は日本や欧州など市場が限られている国や地域では、この考え方自体はかねてから実践されてきました。
・初めての取引は小さな金額から始めて信用を積み重ねていく
・その中で相手企業の課題や要望を把握し、
それに対して地道に対応して信用され、取引額を増やしていく
・顧客企業の担当者を個人として捉え、趣味、嗜好、学歴、社内人脈、職歴などを把握した上で
場合によっては接待も行い相手の懐に入り込む
これらはABMのアプローチ方法と非常に似ており、そのため「日本市場に合致するやり方である」とされるのです。
●ABMは従来の「営業」と何が違う?
ただし、ABMの手法は従来の営業活動とは異なります。
いったい何が違うのか、というと、それを従来のようにフィールドセールスの営業担当者任せ、
ではなく、デジタルを駆使してやりましょう、という点です。
活用するのはここでもまた、SFA(営業支援システム)やCRM、
そしてMA(マーケティングオートメーション)です。
フィールドの営業任せにしないためには、自社内で部門を超えたデータの一元管理と連携が必要です。
●ABMの理想形
・営業現場、展示会、セミナーなどで獲得した名刺、アンケート情報
・Webでの問い合わせ、資料請求などで得た名刺情報
・過去の購買履歴、取引実績データ
・SFAにある商談情報
・FacebookやLinkedInなどのSNS情報
など、これまで各部署に散在して活用されていなかった大量の情報をデータ化し、
SFAやMAなどのシステムで一元管理する必要があります。
その上で、狙いを定めたターゲット企業に対して、
・自社の商材・サービスの価値を伝えるために
良質なコンテンツでキャンペーンを実施
↓
・その行動と属性情報でスコアリングして、
ターゲット企業のなかで「今アプローチすべき個人」を特定
↓
・そのリストを営業チームにシェア、フィールドと一体化して攻める
…これが「ABMの理想的なカタチ」となります。
●ABMはどんな企業に向いている?
ABMはどんな企業にも向いているワケではありません。
では、どんな企業に最適?というと、
1.とにかく営業リソースが不足して得意先を攻めきれていない
フィールド営業スタッフの多くは新規営業より既存顧客の対応の方が得意です。
目の前に具体的な案件があり、売上時期も明確なので当然です。
しかし、その得意先にはまだ訪問できていない部署がたくさんあり、
担当者もたくさんいる、というケース。
そんな場合は新規開拓はABMでやり、
ある程度見込みが高まったらフィールド営業にバトンタッチ、となると理想的です。
2.そういえば知らない間に競合に得意先の新規案件を横取りされた
長く付き合いがある得意先企業で、知らない間に案件が発生し、
知らない間に競合に持っていかれていた…
そんなケースはまさにABMが必要です。
フィールドの営業担当が既に繋がっている取引を「点」とすれば、
ABMは得意先企業を「面」として捉え、取りこぼしを防ぐ効果があります。
3.ターゲット企業は少ないが、ターゲット部署はやたら多い
例えばある特定の業界、業種向けのニッチ商材の場合など、
ニーズがある企業自体はそれほど多くないが、
ターゲット企業はいずれも大企業で担当部署が日本全国に散らばっている、
といったケースです。
限られた営業リソースでは訪問するだけで何年もかかり、そもそもアポも取れないでしょう。
そんな場合はABMを駆使する事で狙い撃ちする事ができます。
このように、ABMはフィールド営業のフォローであったり、
先回りであったり、横展開であったり、と捉えるとわかりやすいかもしれません。
●ABMの理屈はわかったけど、どうやるのかイマイチ腑に落ちない
ここまでの説明でそう思われた方は勘がいい方です。
巷の多くの説明はこの後、「ターゲット企業の選定方法」とか
「データの絞り込み、分析方法」ばかりになるのですが、その前に、
・ターゲット企業の新たな担当者をどうやって見つけるのよ?
の方が気になりますよね。
そこで活用されるのは、大手企業なら保有している「固有IPアドレス」です。
最も有名なのは株式会社Geolocation Technology
(旧サイバーエリアリサーチ株式会社)が提供する「どこどこJP」。
MAツールのマルケトはこの機能を組み込んで「Marketo ABM」として発表しています。
https://jp.marketo.com/press/20171011-390.html
また、イノベーション社が提供するMA「リストファインダー」にも
その機能が搭載されています。 https://promote.list-finder.jp/
デジタルアド(広告)の世界でも今や企業IPを絞り込んでのターゲティングは常識になりつつあります。
いかがでしょうか。
ABMの狙い、考え方、やり方、どんな企業に最適?など、
できるだけわかりやすくご説明しました。
さらにデータを駆使しなければならず、
用意するコンテンツ量も多いため、
これからマーケティングを確立させる段階では少し上級者向けかもしれませんが、
理屈だけでも知っておいて損はありません!
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