今回は改めて、
「日本企業でマーケティングが根付かない理由」
「何故うまくいかないのか?」
「根付かせるためには?」
についてお話した上で、それを解決する「3S+C」という考え方について解説します。
◎日本企業で「マーケティング」が根付かない理由
中国にその座を明け渡したとはいえ日本は米国、中国に次いで第3位の経済大国です。しかしながら、欧米諸国やアジアの新興国などと比べても、企業において「マーケティング」が存在しない、かなり特異な国と言えます。日本企業では大企業や外資系企業を除けば「マーケティング」と名の付く組織が存在せず、理解している社員もほとんどおらず、担当役員がいる企業は全体でも1%にも満たないでしょう。それはなぜなのか、その背景には大きく2つの理由が存在します。
■市場が拡大しているときは「マーケティング」は必要ない
・日本は戦後、国内、海外のマーケットが急激に拡大
・朝鮮戦争特需~高度経済成長~バブルと一貫して右肩上がりの売り手市場
・需要の方が多いため作れば売れる、需給が均衡していても安ければ売れる環境
そのため、長く「マーケティング」は必要とされませんでした。
■既存顧客×既存商品では「マーケティング」は必要ない
・既存顧客に既存製品を売る場合、重要なのは営業がいかに顧客企業側の担当者に好かれるか、であり、顧客からの問い合わせにいかに早く対応するか、また接待やゴルフなどのコニュニケーションです。そのやり方で、日本企業は生き残ってきました。
そんな時代が戦後~2010年くらいまで60年以上続いてきたため、日本企業には「マーケティング」という概念、組織ものが存在しなかったのです。
◎近年、日本企業で「マーケティング」の意識が高まっている理由
2010年を境に、徐々に日本企業でも「マーケティング」の必要性、意識が高まってきました。
2014年は「マーケティングオートメーション(MA)」がバズワードとなり各企業が競って導入し始め、「MA元年」と言われます。
それ以外にも「コンテンツマーケティング」「アカウントベースドマーケティング」など、続々と情報が提供され、注目されています。この機運の高まりは何故か、というと、
■「既存×既存」市場での成長が止まり、新規開拓が必要になった
マーケティングとは「選んでもらうための戦略」、需要よりも供給が高くなって初めて必要になる取り組みです。実際に、既存顧客に新商品を売ろうとすると、これまでとは異なる事業所や部署の人に会わなければなりませんが、言われるのは「まずはWebを見て、必要ならこちらから連絡します。」これまでのやり方では突破できません。
そして、これまで繰り返し解説してきた通り、
■顧客側の意識も嗜好も変わり、綿密な情報収集を経てからでないと問い合わせもしてもらえなくなった
という環境変化も大きな要因です。
この結果、事実、海外企業に製品の品質もサービスも負けていないのになぜか失注する、案件や顧客を獲られる、という事が起こっています。
彼らにあって日本企業にないもの、それが「マーケティング」です。
これまでのBtoBでは常識とされてきた「優秀な営業部隊があればなんとかなる」という時代が終わりを迎えたのです。
◎日本企業で「マーケティング」がうまくいかない理由
長年、必要だと認識していなかったため無理もないのですが、うまくいかない理由は段階的に大きく2つになります。
1)マーケティングを敬遠してきた企業:(偉い人たちが)「マーケティング」を誤解している
「マーケティング」を「市場調査」「商品企画」「広告」「広報・PR」だと勘違いしているケースが多く見られます。そのため日本のBtoB中堅中小企業では「ウチには新規商品開発がないから必要ない」「売っているのは一般消費者向けじゃないから必要ない」と疎かにしがちなのです。
市場調査や商品企画はR&DやM&A、広告、広報、PRはその名の通り広報・PRなどの別の組織が対応するものです。
「マーケティング」は(見込みを含む)顧客に自社を選んでもらうための活動であり、営業案件創出(デマンドジェネレーション)や、新規、既存顧客のフォロー(ナーチャリング)を行って売上に貢献するものです。
イマドキの「マーケティング」はもっとベタな、「企業の売上を伸ばすための戦略」であり、もはや「市場調査」や「商品企画」や「広報」「宣伝」とはまったく別物とご理解ください。
2)マーケティング活動を実施してきたがうまくいかない企業:活動がバラバラで行われている
各企業では販促施策として営業部が展示会、セミナー、テレマーケティングを行なったり、Web、カタログ、ビデオを作ったり、SFAなどのCRMや名刺管理システムを導入したり、営業コンサルを導入したり・・・と努力しています。
しかし、それらが各事業部でそれぞれの予算と判断で活動しているため、手間とコストをかけた割に成果がでない事態に陥っています。
全体設計が不十分なままSFAやCRMを導入すると営業部門に負荷だけがかかり、訪問件数を減り、売上を落とすことにもなりかねません。
仮に運よく、その中のどれかで成果が出たとしても、属人的な誰かの頑張りに依存しているだけでは持続しませんし、頑張り過ぎると他部署との関係が悪くなり社内がギスギスしたり、というリスクもはらんでいます。
◎日本企業でマーケティングを根付かせるための『3S+C』
日本のBtoB中堅、中小企業でもマーケティングの意識が高まっている企業は確実に増えていますが、まだまだ「マーケティング」専業スタッフや部隊がなく、営業部門が対応しているケースが非常に多いです。
「マーケティング」を企業に根付かせ、持続するためには「自社をどう変えるか」には、下記の”3S”が必要です。
〇戦略立案:Strategy
〇実現するための人財育成と組織構築:Structure
〇利用するツール選定:System
日本では一足飛びにツールを導入するだけなので使いこなせずにいる企業が多いのですが、そもそもツールは道具でしかないため、使いこなして成果を上げるには使う人の腕次第です。マーケターを育成し、しっかりとしたマーケティングの組織を作り、企業の成長戦略の中枢として位置付けなければなりません。そのためには、経営幹部もある程度、「マーケティング」とは何か?を理解する必要があります。
そして、多くのマーケティングコンサルはここでおしまい、なのですが、もう一つ。
〇継続して制作できるコンテンツ制作手法:Contents
が重要です。適正価格を知り、適正な業者を選定し、社内にルールとフォーマットがなければ俗人的な局所対応の連続で、生産性は向上できません。
◎マーケティング担当者のやるべきこと
社内にマーケティング組織があり担当者がいる場合でも、その人たちが展示会の運営にベタ付きだったり、Webやカタログなど個別制作物の発注に時間がかかったりしていると、あっという間に時間が経過して、成果は?と言われるとまだまだ、という事態になります。
マーケティング担当者がやるべきことは展示会の立ち合いやWebの更新などの「作業」ではなく、「戦略立案」と「社内の連携」です。
htmlやデザイン、Excel関数のスキルが必要な訳ではありません。(最低限の知識は必要ですが)マーケティング担当者は、市場と自社の状況を正しく把握し、分析し、経営層や営業部門と連携してやるべきことと優先順位を定め、社内、そして社外のスタッフに明確に指示を出し、チェックし、管理するのがミッションです。そのためには「仕組みを構築するスキル」と「コミュニケーション」スキルが必要です。
◎アウトタスクではなくアウトソースする能力
日本企業は伝統的に何から何まで内製する傾向にありますが、セキュリティ対策などと同じく、社内にノウハウがないものを社内だけで構築するのはかなりの遠回りと無駄な投資が必要です。制作技術は陳腐化しますので、ただでさえリソースの少ない中堅中小企業が社内にデザイナーやhtmlコーダーを置く必要があるとも思えません。いまはクラウドをはじめ、かつてよりも安値で活用できるサービスを提供している企業が数多く存在します。
マーケティング担当者に必要になるのは、アウトソース先である制作会社、サービス提供会社に自社の課題と目的を明確に伝え、正しいコスト感で見積と提案をもらい、取捨選択して選定するスキルです。そのためには最低限の知識と理屈を身につける必要があります。
◎目標は「売上を創るためのマーケティング部門」を創り、「持続的に自社の発展に貢献する」こと
社内にマーケティングを推進する人員を育成し、組織を立ち上げることができれば、これまでバラバラだった社内のマーケティング活動が一体になり、相乗効果を生み、確度の高い営業案件を安定的に営業に供給できる「売れる仕組み」が再構築できます。
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