29_外資系企業あるある Webサイト日本語品質のお悩み~翻訳とローカライズ・リライトの違い

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今回は「外資系企業あるある」の悩み事、「Webサイトの日本語の品質」についてです。

先日、とある外資系企業のマーケティング担当の方からご相談を受け、コーポレートサイトの日本語ローカライズ(リライト)のお手伝いをしました。実際に自分でやってみて、いろんな気づきがありましたので、ご紹介したいと思います。

 


 

■グローバル企業の宿命

通常、グローバル企業のコーポレートWebサイトは、ガバナンスの関係で各エリアでの勝手なコンテンツメイクは許されません。コスト集約の兼ね合いでコーディング(Webの編集)作業も、海外のあるエリアで一括して作業、という企業も珍しくありません。

 

英語圏でさえ、アメリカ英語と欧州での英語は違う、と言われているのに、特異なキャラクターである日本語は、どうしてもここで躓きます。

本社サイドで日本語を正しく理解してくれる担当者がいる企業は稀でしょう。そうなると、日本サイドで英語を日本語化して、日本語を理解していないWeb作業者に渡して流し込んでもらう必要があります。うまく指示をしないと、かなり危険です。

 

多くの場合、普通に行われるのが「翻訳業者」に英語→日本語の翻訳を依頼する、というアウトソースです。しかし、BtoB企業のWebサイトに掲載されている文章というものは、なかなか一筋縄ではいきません。

 

英語をそのまま、正しく「翻訳」しても、日本市場の意思決定層に響く文章になるか?というと・・・残念ながら、「なりません」。

 


 

■BtoB企業における「翻訳」の難しさ

 

・業界特有の専門用語
・製品名、サービス名など自社特有の用語

 

が頻発しますので、フツーの翻訳を依頼すると、「意味不明語」として訳されずに戻ってきてしまいます。そこまでひどくなくても、ある程度Webなどで調べてくらいでは、誤った日本語になってしまうなどの危険性は少なくありません。

 

さらには、読み手のリテラシーや、トレンドなどによって、

 

・英語表記のままにしたほうがよい
・カタカナ語にしたほうがよい
・日本語訳するべき

 

などの判断も必要となります。

 

例えば、「Compliance」はかつては「法令遵守」などと訳されていましたが、もはや「コンプライアンス」でも十分通じます。「GDPR」は「EUデータ保護規則」という日本語名がありますが、「GDPR」の方が一般的に認知度が高いでしょう。

 

このように外来語は、時間が経過すると日本語として認知されるようになったり、最初からその名称で浸透したりするので、ヘタに日本語化するとかえっておかしな印象を与えたりするのです。

 


 

これらを踏まえた上で、まずは「翻訳」といわれる世界で、どのような工程と役割があるのか、を理解する必要があります。

 

■翻訳(トランスレーション)

翻訳はソース言語に忠実に従いながら、その内容を、その通りに日本語化するプロセスです。その際に、文化的背景やトレンド、ましてや業界の常識などにあわせて修正を加えることはほとんどありません。

 

よく「直訳過ぎて日本語としてどうなの?」などと言いますが、そもそも、翻訳とは直訳なのです。

 

直訳の何がイヤなのか、というと、堅苦しい表現だったり、ヘタクソ(に感じられる)な日本語になる点です。製品やサービスの魅力を訴求したいBtoB企業のコーポレートサイトにおいて、これは致命的です。

 

■リライト(ローカライズ)
そこで必要になるのが、「ローカライズ」、と呼ばれる「リライト(文章の書き直し)」作業です。

ローカライズは日本市場の、意思決定層に対して、正しく、そして魅力的な説明になるように、工夫して適切な日本語に仕上げる作業です。柔らかくしたり、言い切ったり、その原文が何を伝えたいのか?という本質を理解して、意味合いを変えない程度に言い回しや使う用字用語を工夫する必要があります。

 

そのため、これは翻訳の専門家の範疇を超えて、文化的背景やトレンド、業界の常識などを把握している人が行う必要があります。

 

■翻訳+ローカライズ
「日本語ネイティブに翻訳してもらえれば問題ない」というのは誤解です。その日本語ネイティブの方はあくまで翻訳業の方ですので、必ずしも業界に詳しい方とは限らない、というより、その可能性は限りなく低いでしょう。

 

中にはそのようなリライト業務までを一括して引き受けてくれる翻訳会社もいますが、コストだけを重視してとにかく安い翻訳会社を選択すると、この部分の工程はバッサリカットされ、硬い直訳の日本語が納品されてしまします。

 

そうなるとどうなるか、といいますと、よくあるお話ですが、「翻訳業者に費用を支払ってあがってきた日本語を、社員の誰かが、正しく意味の通じる日本語に書き直す」という工程が発生するのです。

 

これは、分量が少ない間はなんとかなりますが、増えてくるとかなり現場をひっ迫させます。

今回は英語→日本語化の例ですが、当然、日本語からほかの言語への移行でも同じ問題が発生します。多くのグローバル企業でこのフローやリソースが潤沢ではないために、問題になっています。

 

■コピーライト(トランスクリエイション)
実はもう一つ、翻訳会社によっては上のクラスの工程があります。それは「コピーライト」、文字通り、最初からほかの言語で、その国の人々に正しく伝わる、共感を得られる文章を、書き起こす作業です。

 

完全な書き起こしですので創造力に溢れた、魅力的なキャッチコピーで訴求できますが、ただし、当然これには莫大な時間とコストがかかりますので、予算や納期に余裕があるか、本当に売り上げ効果の高い国や地域別のキャンペーンでもないと、なかなか実施は難しいところです。

 


 

■ローカライズ(リライト)を実施してみた実感

私自身が今回行った作業は、

 

①クライアント側で翻訳業者に依頼してあがってきた日本語をWORDで支給してもらい、それを英語サイトと見比べながら、より伝わる日本語に書き直す(リライト)

 

②海外のWebコーディング作業者(翻訳業界ではタイプセッターと呼ぶそうです)が、流し込み作業時にわかりやすいように、パワーポイントにキャプチャを貼り、どのブロックにどの日本語が該当するのか、を割り付けた指示書の形で納品

 

というものです。

②に関してはリクエストがあった訳ではありませんが、日本語がわからないタイプセッターの方に、WORDやテキストファイルで日本語データを渡しても・・・と思ったのでこうしてみました。

 

やってみてわかったことなのですが、Google翻訳の精度が格段に進化している、ということでした。

かつてはWebブラウザでの無料翻訳なんて、なに言ってるのかわからないお粗末なもの、というイメージでしたが、今回試してみると、①の「翻訳業者に依頼してあがってきた日本語」と大差ないのです。もちろん、翻訳会社さんのレベルや、依頼した作業内容、費用によって差があると思いますが、リライト前提の粗訳であれば、Google翻訳で十分、事足りるというのが正直な感想です。

 

当然、誤訳もありますし、怪しい表現もたくさんありますが、その多くは元の英文のわかりにくさに起因している印象でした。そこはどのみち、リライトで修正する必要があります。

 

それであれば、無理にコストをかけて、翻訳業者に依頼する必要はないのでは・・・?と思ってしまいました。

 


 

■正しい「ローカライズ」コストの見積依頼方法

そう思いながら、いくつかの翻訳業者さんのサイトを見てみると、誤解していたことがたくさんあることがわかりました。

多くの方は、翻訳を依頼する際に、「元になる言語のボリューム」くらいしか、伝えていないのではないでしょうか。

それだから、これまで説明してきた通り、Google翻訳(直訳)レベルのコストしか見積されず、そのまんま依頼した挙句、希望していた品質に満たなかったり、その品質に引き上げるのに更なるコストがかかったり、泣く泣く自前でリライトする、といったことになりがちなのです。

 

正しいローカライズコストを見積ってもらうには、以下の情報をきちんと伝えることが必要です。

 

1.翻訳・ローカライズ対象ファイルを用意して、伝える

ローカライズ対象の原稿ファイルは何か?です。渡し方によってもコストが変わってきます。
〇Webサイト
・ブラウザから直接作業してもらう
・MS-Word
・TXTファル
〇ブローシャ(パンフレット)
・Adobe InDesign(インデザイン)
・Adobe Illustrator(イラストレータ)
・PDF(アウトライン化されていない、テキストが抽出できるもの)
〇マニュアル(取扱説明書)、ホワイトペーパー
・Adobe FrameMaker(フレームメーカー)
・Adobe InDesign(インデザイン)
・MS-Word
〇マーケティング資料
・MS-PowerPoint
・MS-Word

などなど。翻訳会社側で作業しやすい(抽出作業が不要な)ファイル形式で渡せば、当然コストは安くなります。

 

2.参考資料を準備して、渡す

過去に翻訳、リライトした見本となるものを渡すことで(コストはともかく)、精度が向上します。
例えば、
・前回バージョンの原文と訳文のセット 
 ・用語集(グロッサリ) 
 ・スタイルガイド
 などがあれば、必ず渡しましょう。
*ただし、内容がまるきり違うものや、精度が低いものは却って混乱を招きますし、確認の負荷が発生してコストが割高になる可能性もありますので注意しましょう。

 

3.「翻訳メモリ(Translation Memory)」を整備して、渡す

これがローカライズにとって最も理想的なのですが、SDL TRADOS(トラドス)などで作成されている Translation Memory=TM(翻訳メモリ)を整備することです。過去のローカライズにおいて、「自社にとってはこの言い回しが望ましい」という文例を蓄積していって、次回以降の精度を高め、納期を短縮する役割を果たします。初回の翻訳時に、翻訳会社に相談すれば、このメモリを整備することが可能です。もちろん、そのための初回コストはかかりますが、次回以降の精度とコストを下げるのに、非常に有効な手段で、翻訳業界ではもはや常識になっています。 フリーのものから有料のものまでさまざまですし、AIやディープラーニングなど進化の目覚ましい領域でもありますので、専門家に相談してみてください。

 

4.作業範囲を正しく伝える

これもおろそかにしがちですが、納品してほしいファイル形式と、作業範囲を明確に伝えて見積をとりましょう。

例えば、
〇翻訳作業のみ・・・テキストファイルで納品
〇翻訳作業+ローカライズ(リライト)・・・直訳文に加えて、リライトした文章も納品
〇翻訳作業+ DTPレイアウト作業・・・元のファイル形式で体裁や見た目を整えて納品
〇翻訳作業+ HTMLコーディング・・・HTML 形式で納品
などなど。

どこまで対応可能かは翻訳会社によって異なりますが可能な範囲を見積ってもらい、その後の自社内の作業負荷と、コスト見合いで判断しましょう。

 

5.希望納期を伝える

 

翻訳、ローカライズは思っているより期間がかかります。急ぎの対応は追加コスト、となるケースが一般的ですので、希望があれば明確に伝え、スケジュールによって費用が変わるかどうかを確認しましょう。

 


いかがでしょうか。

Webサイトでの魅力的な情報発信や訴求は、いまや欠かせないマーケティング活動ですが、「正しい日本語にする」だけでも、知っておくべきことがたくさんあります。

 

もし、翻訳会社に依頼しても解決しない・・・という場合には、お気軽にご相談ください。

 

BtoB企業マーケティング コンサルティング
株式会社Red Comet Management [RCM]

 

 

 

 

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