今回は、「パワーポイント提案書のブラッシュアップ&レギュレーション策定が、BtoB企業の営業効率化につながる」という解説です。
日本企業ではなかなか認知されず、予算をかけてしっかり整備されることが少ないパワーポイントですが、外資系企業ではプロに委託して「レギュレーション」を整備することが”常識”なのです。
パワーポイント営業提案書の問題点
多くのBtoB企業の営業担当者は、パワーポイント(Microsoft PowerPoint:以下 パワポ)を用いて、お客様案件ごとに「営業提案書」を作成しています。
お客様個別の要件に対応し、各営業が自前で作成するために
×作成に非常に時間がかかり、「効率が悪い」
×作り手により内容や見た目にバラツキが出て「属人的」
×訴求力がイマイチで商談の「成約につながらない」
といった課題があります。
営業担当者を対象としたある調査結果*によれば、「もっとも時間がかかっている自身の業務は?」の問いに対し30.5%が「資料作成」と回答。これは移動時間(19.3%)や商談(11.3%)、メール(10.0%)などを抑えて圧倒的1位です。
さらに驚くべきことに「業務時間の約半分以上を資料作成に費やしている」との結果が出ました。
*調査参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000052185.html
この課題は多くの企業で認識されており、AmazonやFacebook、LinkediIn、そして日本でもトヨタやサントリーなど「パワポ禁止令」を表明する企業も出てきたほどです。
しかし、ビジネスパーソンのスキルで写真や画像をレイアウトして、提案資料を作成するとなると、パワポしかないのもまた事実。競合他社も軒並み、パワポの技術を駆使した提案書を提出していますし、時にはお客様から「編集したいので元のパワポデータをください」とリクエストされることも多いため、自社だけ別の方法を・・・というのは勇気が要ります。
であれば、「営業スタッフが多くの時間をとられる、このパワポによる提案書作成を効率化できないか」という考え方が必要になります。
パワポ提案書ブラッシュアップのニーズ
私が最初に、企業の「パワポ営業提案書」の作成をお手伝いしたのは、かれこれもう15年以上も前になります。
その際は某IT企業大手からのリクエストで、
「セミナーで上長が講演する資料の見栄えを整えて欲しい」
「大きなコンペで競合他社に見劣りしないクオリティにしたい」
というものでした。
確かに、パワーポイントの営業提案書は自前で作るが故に、あちこちから拾い集めた著作権の怪しいアイコンや写真が適当な位置にベタベタ貼ってあり、フォントも文字サイズも、そして色使いもバラバラ。見るからに「素人による手作り感」満載の仕上がりになりがちです。
私のように普段からデザイナーとDTPクオリティの制作をしている者であれば、プロに作図を依頼していくらでも見映えをよくできるのですが、「パワポ制作を外注する」というのはニーズが非常に高いにもかかわらずなかなか社内で理解が得られず、お客様側も毎回、予算確保に苦労されています。
パワポによる提案書を外注するのが難しい理由
そもそもパワポは、普通のビジネスパーソンが資料を作成するためのソフトウェア。そのためその制作を外注したい、となると「いやいや社内で頑張れよ」と言われてしまい、予算承認が下りずらいメディアです。
受け手側、外注される制作会社側にとっても、パワポはなかなかやっかいです。なぜなら、プロとして活動しているデザイナーはほとんどがMac環境で、Adobe IllustoratorやInDesignといったDTPソフトウェアを使用しており、Windowsのパワポを使う人はいません。Mac版のパワポも存在しますが、互換性の部分で不安があり、フォントやレイアウトなどが崩れがちだったりします。
依頼する側からするとなるべく安く頼みたい。
受ける側からすると通常の制作とは異なるのでやりにくい。
・・・これらの事情が絡み合って、パワポ制作をアウトソースする、というのは実はなかなか、簡単ではないのです。
近年ではパワポ制作を専門に受託している企業も多く存在するようになりました。
しかしその中には、単にMicrosoftの標準テンプレートを使っているだけだったり、「オペレーションはうまいがデザインがイマイチ」「デザインはうまいがパワーポイントの仕様を使いこなせていない」など一長一短あり、クオリティもマチマチです。さらには、「見た目(デザイン)は対応できるが、中身については業界や商材に明るくないため対応できない」ケースがほとんどです。
専門的な商材を扱うBtoB領域では、かなり注意して外注先を選定しないと、期待外れな結果につながりかねないので注意しましょう。
外資系企業では「常識」のパワポ提案書「レギュレーション」整備
それに対し、外資系企業ではパワーポントで提案書を作成する際のテンプレートやカラーパレット、フォントセットやアイコンなどのグラフィックまでを「レギュレーション(標準規定)」として整備している企業がほとんどです。
その理由は、
- 企業としてのブランドクオリティを一定に保つため
- 提案資料作成にかかる社内工数を削減するため
- 競合他社と比較された際に見た目で負けないため
- 画像やアイコンなどの著作権違反を防ぐため
などが挙げられます。
これにより、誰が作成しても一定のクオリティが保たれ、また作成にかかる素材探しなどの工数も大きく削減できます。
「そこまで費用はかけられない」場合の現実的な解決策
このように、「営業提案書の品質のバラツキと作成にかかる多大な工数を削減する」抜本的な解決策としては、「全社共通のレギュレーションを整備する」のが最善の策です。
しかしながら、本気でこれをやろうとすると費用も時間もかかります。過去、私は大手企業のパワポ提案書のレギュレーション策定を何度も行いましたが、整備する範囲の規模にもよりますがン百万円のコストがかかることは、珍しくありません。
実際に営業スタッフの提案書作成にかかる時間を調査し、人数をかけてみれば驚くほどのコストがかかっているため、そのくらいのコストをかけても十分費用対効果はあるのですが、それらは人件費の中に埋没している「見えないコスト」。そのため、予算申請してもなかなか社内で理解が得られないことが予想されます。
正攻法の申請では予算承認が下りなかった、という場合は、
- 「展示会やセミナー、ウェビナー開催コストの一部に含めてしまう」
- 「入札や巨額のプロジェクトなど、大型商談の営業経費で賄う」
というやり方もあります。
展示会やセミナーの成果はその後の商談発掘。大型商談も配布資料の出来栄えいかんで、大きく反応が変わります。会社として比較的大きな予算が出やすい、こうしたイベントを活用するのが現実的な一つのアイデアです。
しかし、それでも「100万円~規模の予算確保は厳しい」という場合は、「全社での大掛かりなレギュレーションの策定は諦めて、1資料のパワポ提案書だけを外部のプロに委託してブラッシュアップしつつ、必要最低限なフォーマット+デザインパーツを整備する」方法がオススメです。
パワーポイント提案資料を「ブラッシュアップ」する際のコツ
それではここからは、現実的な解決策である「全社での大掛かりなレギュレーションの策定は諦めて、1資料のパワポ提案書に絞ってブラッシュアップしつつ、必要最低限なフォーマット+デザインパーツを整備する」際の、進め方のコツを解説します。
①できるだけ汎用性の高い資料を選ぶ
せっかくコストをかけてプロに依頼するのであれば、できるだけ汎用性の高い、多くの営業担当者が使う提案書をブラッシュアップしましょう。
当然、使用機会が多ければ多い資料をブラッシュアップする方が、営業効率の改善効果も、売上に対する貢献度も高いものになります。
②見た目だけを整えるのではなく、「フォーマット」と「パーツ」を整備する
フォーマットとは、表紙、中扉、背表紙に加えて、本文ページのフォント、フォントサイズ、カラーリングなどを規定することを言います(印刷前提のA4横型だけでなく、投影に最適な16:9タイプも増えており、サイズも検討が必要です)。
③マスタテンプレートも含めた整備を行う
パワーポイントには、すべてのスライドを一括して編集・管理する「スライド マスター」という機能があります。スライド マスターを設定することで、スライドの背景や規定フォント、文字の色、サイズなどの書式を一括で管理できます。また、社員が勝手に変更してスタイルが崩れる事故も防げます。
スライドマスターの画面例
外部に依頼する際は必ず、この「スライドマスター」の編集もセットで行いましょう。
④頻出のアイコンも整備する
営業提案書によく使用されるアイコン(インフォグラフィックス)も、この機会に整備しましょう。プロのデザイナーの手によるオリジナルアイコンを一式取り揃えておくことで、営業は提案書作成時に探す手間がなくなり、著作権に関するリスクも防ぐことができます。
アイコン整備の一例
営業資料パワーポイントの「ブラッシュアップ」による効果
ここまでご説明した汎用営業提案書の「ブラッシュアップ」と、必要最低限のフォーマット、デザインパーツを整備することで、どのような効果が得られるのでしょうか。
①営業の効率化
営業担当者は、今回ブラッシュアップされたパワーポイント営業提案書を参考に、また用意されたアイコンパーツを駆使することで、従来よりも提案書作成にかかる時間を大幅に削減することができます。
②提案書のクオリティ向上で商談の質も変わる
お客様への提案書のクオリティがアップすることで、見込み案件商談の質も高まります。パワーポイント営業提案書は多くの営業担当者が商談現場で使い、お客様の目に直接触れる資料であるだけに、成約までのリードタイムが短縮される、成約率が向上するといった売上に直結する効果が期待できます。
まとめ
いかがでしょうか。
今回は多くの外資系企業では「常識」として実施されているにもかかわらず、日本企業ではなかなかその必要性が認識されず、予算承認が下りにくい「パワーポイント」営業提案書のブラッシュアップが、営業の生産性を高めて売上に貢献する効果があることを解説しました。
実施の際は本記事を参考に、「営業の業務効率化」と「商談の質向上」という、本質的な目的を意識しましょう。
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